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「あのねぇ田鍋さん。あなたの気持ち一つで、
うちのスケジュールが変わるわけないでしょう?」
「そ、そこをなんとか」
「なんともなりません。
ページに穴をあけるわけにはいかないの」
「でも、ほら、そもそも特別号の特集ともあろうものが個人の記事っていうのは。
ここはもっと、ずっと大勢の人が気になってるような、そう、隣町付近の神隠しとか!」
「現場が遠い。それにその神隠しなら、つい数日前に全員帰ってきてもう収束してるじゃない。
それじゃだめなのよ! うちが求めるのは新鮮で、
誰も切りこんだことがない話題。
我が部の信条はH&Sよ。ホット&センセーショナルよ。中途半端なネタ拾ってくるんじゃないわよ!」
いや、現場が遠いのはうちのお隣だって変わりませんけど?
「部長。田鍋さんは部員じゃありません」
同じテーブルにつく部員さんが、
私の代わりにさらりと言った。
二年生のお一人で、机上のプリントを見つめたままの一言が実に手慣れている。
突然の剣幕に呆然とした私がはっとして、
ぐいと上体を乗り出していた立川さんがゆっくりと姿勢を戻した。
「そうね、ごめんなさい。でも、とにかくこの段階で特集を差し替える気はないわ。
他に話は? ないなら、もう帰ってくれる」
「えっ、いやあの…っ」
「ほら、出てった出てった。
あなたの協力がない以上、こっちは新しい策を練らなきゃいけないんだから。忙しいの」
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