前章

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夕暮れの空はまだうっすらと明るい。 歩を進める私は、 そんな薄暮の光景を木々の隙間に見上げてみた。 もっと早く来られればいいのだけれど、 やっぱりこの時期にそれは無理らしい。 まあ、今日は一度家に帰ったから、 そのせいともいえる。 ミニバッグ片手に玄関へ着けば、こちらが手を伸ばす前に引き戸がからりと開けられた。 「いらっしゃい。居間から見えてたよ」 戸に手を添えて出迎えてくれたのは、 なんだか久しぶりに見る、ここの家主さん。 「横宮さん。こんにちは、 風邪、もう大丈夫なんですか?」 「ん? ああ、うん。大丈夫」 「よかったぁー。結局三日も寝こんでましたもんね」 玄関口に上がりながら、 大げさでなくほっと胸をなでおろす。 この玄関を放り出されたあの夜は、 今日から見れば三日前のことだった。 おととい、昨日と訪ねても聞かされる言葉は変わらなくて、長すぎやしないかと心配が募っていただけに、こうして顔を見られたことが素直に嬉しい。
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