前章

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「疲れでもたまってたんですか? いきなり狐さんに会うし、それに今日までちっとも家に入れてくれなかったし、本当びっくりしたんですよ」 「うん、ごめんね。うつしたら悪いと思って、 帰ってもらうことにしていたんだけど…」 「あっ…いえいえ、とにかく治ってよかったです。 そうだ、これ、 必要かなと思って、持ってきちゃいました」 いけない。 この人に恨み言を言っても仕方ないんだった。 廊下を歩きながら、 私は取り繕うようにしてミニバッグの口を開いた。 門前払い対策として用意したのは、 家にあった風邪薬とちょっとした軽食。 軽食のほうは、お隣さんが風邪だと聞いた母さんからの物だったりする。 「薬は持って帰れますけど、 こっちはお夕飯にでも食べちゃってください」 「ありがとう。戴きます。──栗ちゃんも、身体には気をつけてね。今はちょうど忙しい時期でしょ?」 「あー、そうですね……まぁ、私はここ数年、 風邪とは全く無縁ですけど」 何気なく呟いたら、 お隣さんから感心したようなまなざしをもらった。 私の場合、体調管理の成果というよりはただ単に若さゆえだったりするのだけれど、 それは言わないでおこう。 それよりも、今の言葉で思い出した。 「そういえば、話してましたっけ。文化祭のこと」
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