前章

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私には、おとといも昨日も熱が下がってないからだめだって言ってたのに。 なんだか飄々として見える横顔を、 試しにちょっとにらんでみる。 そうしたら、不意にひょいと視線が合った。 細目が一瞬、にまっと笑う。 うわあ、これ絶対わざとだ。 悔しいのか腹が立つのか、 なんかもう突然すぎて自分の気持ちがわからない。 「そういえば、栗ちゃん。 さっき言っていた相談は?」 内心のぐらぐらは表に出ていなかったのか、 それとも出ていたからなのか、 横宮さんがそのタイミングでこれを言った。 「え、あ、えぇと…」 「えー、さっきまでの話続けんの? 新しくわたしが入ったんだからさー、話題も新しいものにしようよ。あ、これ食べていい?」 座卓の向かいに着いた狐さんが、 卓上のミニバッグを覗きこんで好き勝手始める。 放っとけばいいのに、 横宮さんがそれに応じて腰を上げた。 「しょうがないな……栗ちゃん、いい? 全部はあげないから」 「…ええ、お好きにどうぞ…」 「じゃあ、お皿取ってくるね」 どこか気遣いを残しつつも、 座っている私たちを残してお隣さんが台所に消える。 いつもより狐さんに優しい気がするのは、 やっぱり昨日の今日だからか。 居間の窓際には、束の間の沈黙が降りた。
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