前章

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「──…どういうことです?」 眼前のカップを見つめて、我ながら静かな声が出る。 「言ったでしょ。見張ってるって」 同じく静かな声が、台所をうかがいつつ返ってきた。 本気だ。 やっぱり本気だったんだ、この狐。 これは、タイミングをうかがっている場合じゃない。 機は自分で作らなくては。 「横宮さーん、私も手伝いますっ」 「まーいいから座っとけ! 嬢ちゃんはお客さんなんだから!」 立つと同時に台所へ駆けだした私へ、 黄色い尻尾の足払いがとんだ。 よけきれず、畳の上に膝をつく。 「痛…」 「まーったく、おっちょこちょいな子だねぇ。 あー、大丈夫、うちが面倒見とくから」 膝をさする私のそばで、 狐さんが横宮さんへと軽く手を振る。 音を聞きつけて廊下まで出てきた姿が、 それであえなくまた引っこんでしまった。 ああ、もう、このふたり、どれだけ気心知れているというんだろう。畳で擦った膝は痛いし、見上げる目つきがついつい険しくなる。 「人でなしっ」 「人じゃないもん」 うわっ、なんてふてぶてしい。 「だめだよぉ、そんな言葉使っちゃ。嬢ちゃんがそんな子だって知ったら、お隣さん何て言うかなあ」 切り返しついでとばかりに、 そのふてぶてしさが更なる攻勢をかけてくる。 「そんなこと…」 「あぁ、さすがに普段は使ってないか。 でもさ…話だから。真偽はどうとでもなるよね」 ちらっと、人の悪い細目がこちらを一瞥した。 「………」 「まっ、本当にそんなことはしないって。 君が約束、守ってくれてる間は」 畳に座りこんだ私の肩に、 ぽん、と黄色い手がのせられる。 何だろう。 なんか……すっごく、いらいらしてきた。
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