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知らない間にこじれたな、と。
まず思ったのはそれだった。
「だからね、うちらで力を貸してあげようって、
そういう話をしてるわけ。聞いてる?」
「聞いてる、聞いてる。
さっきからそれしか言ってないし」
空き教室の一角。
天井で点灯する蛍光灯のように寒々しい返答に、
日比谷美沙がしかめっ面を作ってみせる。
茶色がかった髪が肩の上で軽く揺れ、
迫ってくる顔つきは不満も明らかだ。
とはいえ、不満の量ならこちらだって負けていない。長い黒髪を背中へ弾いてから、
彼女は友人に負けず劣らずの不満顔で先を続けた。
「ていうか、なんでこの話がこんな風に回ってくるの? わたし同じクラスなんだけど。それ以前に、
最初の場面に出くわしたのわたしなんだけど」
「でもラウンジのほうは知らなかったでしょ?
あたしも居合わせたのは偶然だけどさ、栗は話さないだろうなあと思って。見るからに、一人でなんとかしようって感じだったもん」
「それじゃあどうしてわたしに話してくるのよ」
「栗一人じゃなんともできそうにないから?」
なぜか問い返し形式にやってきた返答に、
脱力感を覚えて返事を少し見合わせる。
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