後章

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「あ…あっれぇー。向こう、行ってなかったんだー」 忍びこんだほうが、 ひくひくと頬をひきつらせながら口を開いた。 意外だなぁ、という心情を、 わざとらしいくらいに出している。 対して、 受け答えるほうはまるでいつも通りの様子で。 「うん。ほら、最近は忙しかったから。 しばらくゆっくり休むのもいいかなって」 「あぁ、なるほどー。だったら、 もう深夜なんだからさ、家にいようよ。 また風邪ひくぞ」 「お気遣いどうも。 なにもずっと外にいたわけじゃないよ。 そろそろ、君が来るかと思って」 「………」 「出入口なら他にもあるのに、律儀だねぇ。 わざわざうちの庭から帰ってくれるんだ」 「いや…別に…」 さくさくと小気味良い音で近づく青年に、 今度はやや弁解気味の声が出る。 そんな「狐さん」に、 足を止めた横宮が夜目にもわかる笑みを浮かべた。 「まぁ大方、あの公園周辺の扉が使えなくて、 仕方なくこちらに来たのだろうけど」 「なっ、なんでそれを……! はっ、まさか」 持ち前の勘が鋭さを見せて、 この時だけ、狐の声に勢いが戻った。 「あんたか? あんたが何かしたのか?」 「僕が? 濡れ衣だよ、 メンテナンスか何かだったんじゃない」 「そんなもんあるわけないでしょうが! 何をした? 素直に白状…ちょっと待て」 問い詰めようと前に出た姿勢が、 不意の予感に形を変えた。 素早い動きで反転し、 すぐ後ろにあった白い扉に全身で飛びつく。 押されて引かれて、 狭い範囲にガチャガチャという音が鳴り響いた。
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