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風はどうなっている。 ウィンドウボタンを探す。が、ない。 ああ、そうだ、ボタンはないのだ。 ドアにあるレギュレーターハンドルをまわす。 くるくると回すと、右の窓が降りた。 風が入ってきた。 初夏の風が髪をなでる。 エンジンの音が心地いい。 「まいやん、あのカセットの音を聞かせてくれないか」 「ごめんね、わたしには操作できないんです」 「ああ、そうだったな。わからないか。カセットデッキは操作したことがないからなあ」 「どんな曲なのか聞かせてください」 正太郎は、左手で器用にケースからカセットテープを取り出し、デッキに入れた。 プレイボタンを押すと、ドラムの軽快な響きが車内に流れた。 「ブロンディのコール・ミーね。1980年にリリースされ、ゴールデングローブ主題歌賞にノミネートされた。映画「アメリカン・ジゴロ」の主題歌。「アメリカン・ジゴロ」は、リチャード・ギアの……」 「ありがとう、まいやん。そこでいいよ。曲を楽しもう」 「はい」 デボラ・ハリーの声が車内に満ちた。 サビになったところで、ボーカルの声が少し間延びしてきた。そして、甲高い音を出して音楽が止まった。 「あ、絡まったかなあ、古いからなあ」 正太郎は、カセットデッキのボタンをいくつか押しはじめた。 「正太郎、車がふらついています。前の車との車間距離が詰まっています。速度を落として」 まいやんの声が緊迫している。 追い越し車線の車が正太郎の車を避けるように加速していく。 正太郎はハンドルを握り直し、アクセルから足を離す。 「サービスエリアに行ってなおそう。次のところまではでのくらいだ」 「次は、佐野SAです。あと10キロです。ガソリンスタンドもあります」 正太郎は、ギアを3速に落とし、アクセルを踏みつけた。加速が身体をシートに押しつける。 リアウィンドウの枯葉マークが揺れた。
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