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Q太という猫
Q太はとても無口な猫だ。
目も開かず、へその緒のついたまま、動物病院の前に捨てられていた時に、キューキュー泣いてたその時位しか、彼の声を聞いた覚えはない。
代わりに。
彼のシルバータビーの毛並みは、それはよく喋る。
一人称は吾が輩、名前のない猫をリスペクトしているらしい。
なのに尊敬する作家は寺田寅彦。名前がかっこいいからだそうだ。
目を瞑っていても聞けるから、テレビよりラジオが好きで、消すと怒る。
この情報は全て本人、ならぬ本猫から聞いた話だ。
猫は喋る筈がない? いやいや、尤もだ。私もよく、分かってます。
そもそもQ太は鳴かない猫で、口を大きく開けて、鳴く、ような真似はするが、ごろごろと喉を鳴らす時は別として、ほとんど音を立てない。
当年取って三歳のアメショ混じりのMIX猫、雄、去勢済み、長い尻尾が蛇のようだと評判のみかん動物病院の看板猫、Q太。
彼は、そのとぐろを巻いたときのしま模様で以て、スマートフォンのQRコード読み取り機能を介し、語る、語る、語る。
時に一息に一八一七文字。それがマトリックス型二次元コード、Quick Responseに於ける最大文字数らしい。
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