第一話 その幼女

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第一話 その幼女

 異常。異端。異質。  そんなものが僕の人生にあるのだとすれば、それこそ異常で異端で異質であると言うしかない。  それは当然、そのような経験をしたことがないからなのだが、少しわかりづらいかと思うので、ひとつ例を示そう。  例えば、学校で受けさせられた学力テスト。  全国の生徒が受験してその平均が結果とともに記載されているわけなのだが、僕はこの試験で、どの教科においても平均的な点数しかあげられない。  平均点が六十点だとすると、プラスマイナス一点の範囲に収まることがほとんどだ。  そして、これは持論だが、平均点ピタリが取れないのはおそらく、それをやってしまうとむしろ特別というカテゴリーに属されてしまうからではないだろうか。  達成率一パーセントの難題をクリアしてしまうからではないだろうか。  当然全教科でそれを達成して、騒がれたことなんてことは一度もない。  他人と比べて突出しているところも傑出しているところも一切ないのが僕なのだ。  強いて言うならば、高校に通うために一人暮らしをして自炊している高校生はそこそこ珍しいのかもしれないが、僕よりも夢のために努力している高校生なんて山ほどいる。オンリーワンにはなれない。  そこで僕は最近こんな仮説──というほどに高尚でも大仰でもないかもしれないが──を自分の中で提唱した。 『僕は平凡の星の下に生まれ、僕の人生に起こる出来事はただ一つの例外もなく平凡で凡庸である』  なにを大げさな、と思うかもしれない。  被害妄想も甚だしい、とバカにする人だっているだろう。  しかし驚くなかれ、普通は激動になるはずの高校一年生から、二年生の半ばまで過ごしたというのに僕の中の『仮説』を覆す要素は未だ僕の前にその姿を現さない。  もちろん高校に入学する以前だって、中学校、小学校、幼稚園に在籍していたのだが、その間のおよそ十三年、凡庸の域を出る出来事には果たして出会えなかった。  齢十七。普通しか知らない男の子が僕なのだ。  きっとこんな十七年があと四回ほど繰り返された頃に僕という人間は、僕という平凡は、平凡なまま凡庸に、凡庸なまま普通に死んでいくのだろう。  そんなことを至極真面目に考えていた。  だから。  だからきっとこれも結局は平凡に帰着するのだろう。  僕のことだ、きっとこんなことくらい。  家の前に幼女が捨てられていることくらい。
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