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家具はどこから持ってきたのだろうか。机程度なら備置きがあってもおかしくはないかもしれないが、冷蔵庫は持ち込まれたものだろう。
檜木に食事は必要ないはずなのに、どうして?
「…………」
まあ、こいつはもう人間なんだし、これからの生活を思えば必要不可欠か。出資元は不明だが、こいつのためになるなら多少の不可解は受け入れよう。何者かの差し金だったとしても、記憶喪失の凡人を随時監視しているなんて暇な奴はいないだろう。
さて、これからどうしようか。
とりあえず、僕はもうここにはいられない。殺人犯と同じ屋根の下で暮らすなんて、もし露見したらどんな裁きが下るか知れたものではないからだ。
それに、僕にも罪悪感がある。殺した人間と同居するなんて僕が耐えられない。
必要最低限よ情報だけを書き残して、最早檜木ではないこいつが目を覚まさない内に出て行こう。
住所と名前くらいしか書くことはないが、何もないよりはいいだろう。
「名前……」
檜木西矢──でいいのか? こいつはもう檜木ではないし、僕のことも覚えていない。そんな人間が、果たしてあの檜木だと言えるのだろうか。
簡単だ。断じて違う。
安らかな顔で眠っているこいつが檜木だとは僕にはどうしても思えない。
だからといって、目が覚めて自分が誰かわからないという不安感は筆舌に尽くしがたいものだろう。
だから、なるべく真逆の名前をつけることにした。
「じゃあな──檜木」
茨木京東と──。
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