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再開と再会と再会
後ろ手に拘束された僕らが連行されたのは音楽室だった。
僕の心中を嘲笑うかのように日光によって白く照らされた部屋は、目の如く細かな穴を開けた防音壁と、チョークの粉で白く汚れた教壇が、僕の心の黒と部屋の白との間に介在している。
氷花がいた。
髪の毛は乱れ、服は血で黒く染まり、壁際で体育座りをした状態で、こちらに目を見開く氷花が。
「──氷花!」
彼女の姿を視認した源さんが僕より早く前のめりに叫んだ。僕らの前では気丈でいたが、本当は誰よりも氷花を心配していたのだ。
姉は妹に駆け寄ろうとする。
「ダメ」
と、見えない壁が彼女の進行を遮った。
手だけを動かせないようにして、それ以外の制限をつけないのは、不必要だからに違いない。
「君たちは一応人質なんだから、もっと大人しくしてよ。感動の再会ならもうすぐたっぷりさせてあげるから」
中丿条柿樹が後ろから言う──あの時、突如現れたこいつに、僕らは負けた。
善戦はした──と言いたい。だが、おそらく客観的に見たら一方的だったのだろう。戦える能力も持たずに傍観していた僕が言うのだから間違いない。
優劣は明白だった。だからこそ、僕には彼がなぜ僕らを生かしているのかがわからない。
氷花が一晩経った今も存命しているのはわかる。氷花の能力の前では、流石の中丿条も何もできないらしい。
問題は──
「人質とは、交渉を有利にするために、人の身柄を拘束することや、拘束された人を指す──どうして、人質にする必要が?」
月詠が揺るがない博識を披露しつつ質問した。彼女だって中丿条の蛮行は聞いているはずだ。なのになぜこうも平静でいられるのだろう。
知識は同時に感性も熟練させるのだろうか。
「言葉の綾だよ。君たちの処遇は今から考えるから、ひとまず久闊を叙すといい。ほら」
僕ら五人を能力で突き飛ばした中丿条は言い残し、鍵をかけて部屋を後にした。
「…………」
月詠のように卓抜した知識は有していないが、特別な鍵には見えなかった。おそらく、普通に職員室に常備してあるものだろう。
僕の見る限り、校内に僕ら以外の人はいない。休日とはいえ、日本の公務員は良くも悪くも勤勉なので、一人も出勤していないのはいささか不自然だ。中丿条が人払い──手段は敢えて考えない──をしたのだろうか。
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