第1章

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 メダカ。日本の小川に生息する魚類である。日本に生息する種類では比較的小型の魚であり、オスとメスは尻ビレの切り込みで見分ける。品種改良により様々な色が生まれている。昨今では数万円を超えるものもちらほら出てきているとか出てこないとかなんとか。  とまあ、ぼくがかの魚類について知っているのはこんなものである。 だから、メダカ池に佇む彼女に話しかけるにはちょいと勇気が必要だった。  ぼくは元来、会話が苦手なんでね。  我が桜が丘高校は現在テスト期間準備期間中。つまり1週間の間テスト勉強を大義名分に部活をサボれるということ。  もちろん、大半の高校生はテスト勉強を始めるだろう。いや一部の高校生(いわゆる不良ってやつかな)などは勉強などせずいつもどおり遊び呆けるはず。  ではこのぼく、稲葉誠也はどうするか?  答えは遊び呆けるが正解。ただ誤解をうむ前にあらかじめ言っておきたいんだけど、ぼく自身が劣等生ってことじゃない。テスト勉強なんて焦ってやるものじゃないのだ。普段から授業をしっかり聞き復習していればテスト前日に最低限復習するだけ済む。ぼくはそう考えているし、事実、つねに学年順位10位以内をキープしている。  遊び呆けるとはいったものの部活動禁止の中では部室で入り浸ることもできず、図書館に引きこもろうにも勉強しに来た連中で満席、かといって放課後の教室で一人寂しく夕暮れを眺める趣味もない。  端的に言ってしまうとやることがないのだ。これ自体人間にとってもっとも贅沢な行為かつ浪費であるとぼくは思う。ローマ帝国の哲学者セネカがその著作で触れているように生は有限。残念ながら今現在、自身の生を費やすほどの命題はないし効率的なキルタイムの方法をぼくは持ちえない。生憎この清々しいほどの青い空がゆっくり染まる様子を見ながら徒手空拳を振るしかなかった。  このまま黙って帰るかそれとも暇つぶしを兼ねてテスト勉強でもするか……。  染まりゆく夕焼けを見ながらぼーっと考える。  このまま黙っていても仕方がない。帰るのだ。ただ眺めるだけでも時間の浪費。仕方あるまい。帰ろう。そう思った。  自分自身との乖離と現実に打ちのめされながらの帰り道、廊下で誰がどう見ても挙動不審な女の子を見つけた。  「……あいつ、確か同じクラスだったような気がする」
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