第1章

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 ぼく自身、そこまで社交的なタイプではないし積極的に話しかけることはしなかった。なにより掲示板の前でゴソゴソと怪しい動きしているのだ。こんな子と一緒にいたら共犯にされることは確実に思えた  だがしかし、気になる。なぜ掲示板でこんなことを。  ぼくの中を思索が駆け巡る。  十数秒ゴソゴソとしたあと脱兎のごとくかけていった。なかなかの手際である。  「なになに。メダカを盗んだ犯人を探しています」  犯人とはまた物騒な。  メダカが盗まれたことについてぼくはよく知らない。ただ数日前から少々園芸部が騒がしいことなら知っている。なにやら園芸部内部と生徒会でそれぞれもめているとかなんとか。残念ながらぼく自身は生物部。つまりところ部外者なので詳しいことは知らないのだが。  テスト期間の部活動禁止で沈静化したと勝手に思っていたのが。この状況を見るとどうやらそれは間違っていることを認めざるをえない。  園芸部と生徒会の内部事情に踏み入れるつもりはないが、メダカの犯人については後ろ髪を引かれた。この人生の無駄とも言える憂慮すべきキルタイムに最適ではないか。  「ねえ、君。このポスターは君が貼ったの?」  突然、背後から声をかけられ背筋に電撃が走る。ちらりと目をやるとすぐ隣に顔に笑みをたたえた女の先生が立っていた。  ポスター読むのに夢中になって気がつかなかったらしい。  笑みを浮かべているのは警戒させないためだろうか。なんにせよ一瞥しただけでは腹の中で何を考えているかわからない。  「違います。ぼくじゃないですよ。よく見てください。ほら、ここに園芸部って書いてある。調べてみればわかると思いますが残念ながらぼくは生物部だ。いいですか?ぼくじゃないですよ」 慌てて弁明する。どうやら生徒会担当の先生のようである。桜が丘高校は大きい高校ではないがそれでも何人か面識がない先生がいる。突然声をかけられたこの先生もその一人だ。  「ふうん。そっか。残念。君が犯人だったらこの場で捕まえて平沢先生に突き出せたんだけどな」  笑顔でとんでもないことを言いだす人である。おかげでこちとら不意に一撃食らったような気分だ。おそらく冗談だろうけど。思わず冷や汗がすーっと首筋を撫でる。
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