第1章

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 「本当に残念です。でもぼくが犯人なら先生にみすみす捕まえるような真似はしませんけどね。ところで平沢先生って園芸部に関係がある人なんですか?顧問とか副顧問とか」  「そうよ。平沢先生は顧問ね。ちなみに副顧問は船金先生。そしてわたしは生徒会。残念だけど生徒会の発行許可をえてない掲示物は掲示できない決まりでね。それで犯人探してるの」  「なるほど。そういうわけでしたか。で先生は犯人を取り締まりに来たと」  「そ。探してるんだけどね。なかなか見つからなくて。平沢先生が言うには園芸部の人間だーって。だけどなかなか見つからないのよねえ……。見つけたら教えてちょうだい」 先生の言動の節々から倦怠感を感じた。  「わかりました、ぼくのほうからも探しておきます」  「わかったわ。じゃよろしく頼むわね」そう言い残し先生は掲示物を丁寧に剥がし去っていった。  「園芸部……ねえ」  思わぬ問答で硬くなった体をほぐす。ふと外に目をやると太陽が山に消えかかっていた。  あぶないあぶない。このまますると暗い夜道を帰る羽目になってしまう。  頭の片隅には園芸部のこと。盗まれたメダカのことが残っていた。  昨日は少しばかり曇り気味だったが、本日は清々しいほどの快晴である。  2週間ほど前から梅雨の大雨でうんざりしていたところからの快晴。本当にありがたい。もっとも梅雨は数日前に終わったらしいのだけど。  7月初頭、既に暖かいを通り越して暑い。そのうえ池から登ってくる湿気のおかげで、カラッとではなくジメジメと蒸し暑い。  ぼくはいま構内の僻地、園芸部のエリアに来ている。ここは園芸部らしく管理された花壇や旬の野菜を作る畑など牧歌的な風景が並ぶ。その風景を抜けた先に生物部と園芸部が共同で管理するビオトープがある。ここは主にメダカなどの魚類を生物部が管理し、カキツバタやスイレンなどの湿地に生える抽水植物などを園芸部が管理する決まりだ。  「ここに来るのは久しぶりだな」  生物部では班でローテーションを組んでいるため、ぼくがここに来るのは大体4ヶ月に一度だ。ちなみにぼくの班は教室で身近な両生類を管理しているところ。  アマガエルとかトノサマガエルとかアカハライモリとか。変わり種ではハコネサンショウウオみたいな数が減ってる希少種とかもね。
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