第1章

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 最後に来たのは1年生の終わりだったか……。あのときは枯れ枝が目立ってなんだか侘しさを感じるほどだったけど、夏の今は草花が生い茂って侘しさなど微塵もないね。   今とばかりに咲き誇るヒメオモダカの花畑とその隅にひっそりと咲くギボウシ、そしてその隣に彼女が佇んでいた。面倒なことに首を突っ込むのを覚悟で彼女に声をかける。本当に声をかけていいのか、散々昨日悩んだ。ぼくの出した結論は「きっと教室でダラダラと過ごすよりはマシさ」ということだ  「ねえ。盗まれたメダカってのは見つかったの?」  声をかけると、彼女はまるで不意に尻尾を踏まれた猫みたいに大きく跳ねた。  「そんなにビックリしなくても。ぼくだよぼく。五十嵐みゆさんだよね? 君とぼく同じクラスだろ。見たことあるはずだ」  不安と期待が入り混じったような顔でこちらに顔を向けた。  「あの……。すみません。誰ですか。それとわたしの名前は五十嵐じゃなくて辻元です」  そんなバカな。こんな学校内の僻地にいる女の子なんて一人しかいないだろう。  瞬間、様々な可能性が頭の中を駆け巡る。念の為、改めて彼女をマジマジと観察する。  サラサラと黒くしっとりとした長い黒髪。華奢と言うより痩せギスといったほうがしっくり来るような細い体。薄くほんの少しばかり横に大きな唇。真ん中にちょこんと乗った可愛らしい鼻。顔の中でも異彩を放つ大きな瞳。そしてその雪化粧を施したような肌。間違いない彼女である。  「なにマジマジと見てるんですか。不審者だって先生呼びますよ!」 言動こそ荒いが彼女自身本気で誰か人を呼ぶつもりはないようだ。  「気を悪くしたらごめん。別の人と間違えたんじゃないかと心配だったんだ。でも間違いなかったよ。五十嵐さんだろ?大体、こんな園芸部の片隅のビオトープでメダカを観察してる女の子なんて君しかいないだろうし」  「正解です。あなたが言う通りここにはあまり人が来ないですから試してみたんです。でも誰も来ないってのは正しくないですね。わたし以外にも来ます。平沢先生とか船金先生とか」  彼女は伏し目がちに答える。  「園芸部の顧問と副顧問じゃないか。本当に来るのかい」 思わずため息が出そうになるが深く息を吸いすんでのところで堪える。
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