第1章

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 「大体! あなたはなにしに来たんですか。ここは園芸部のビオトープです。もしかして野菜泥棒さんですか?それならビオトープじゃなくて畑に行ってください。少し早いですけど夏野菜が取れるはずです」  言動からはかすかな怒気が感じ取れる。  「へー。ここはメダカ泥棒だけじゃなくて野菜泥棒も出るのか」  「野菜泥棒は冗談です。ところで、あなたはメダカのことについてなにか知っているんですか?」  「この前ここからメダカ盗まれたんだろ。困ってるんじゃないかと思って手伝いに来たんだ」  「そうですか、わざわざご足労頂きありがとうございます。ですけど、ここに部外者の人に手伝えることはないと思いますよ。ここにだって十数種類メダカがいますし。見分けつくんですか」  ほんの少し喜ばし気な顔を見せたが、すぐに面持ちを崩しつっけんどんな態度で突き放してきた。  「えーと。ぼく生物部なんだ。だから植物に関する知識はないけど動物のことならわかる。ここにある植物の種類はあまりわからないけど、メダカの種類ならわかる。なんならメダカを食べそうな動物だってね。これでも部外者って突き放すかい」  大きくため息をつき、深呼吸した後にこう答えた。  「わかりました。少し頼りないないですけど、捜索隊に加えてあげます。せいぜい邪魔にならないようにしてくださいよ」 そう言って、彼女はいたずらっぽく笑いながら、その場で繕ったような声で答えた。  「捜索隊だなんてよく言うぜ。メダカ探してるの実は君一人なんだろ。」  「なっ! 一体なぜそれを」  「昨日、君がこっそり掲示板に張り紙をしてるの見たんだ。何度剥がされてもすぐに張り直すって聞いたよ。全くその行動力におみそれしたよ。」  「仕方ないじゃないですか、生徒会の許可が取れないんですから」  「まあね、彼らは生徒会か部活動に関することしか認めてくれないからね。特例もないこともないけど。なかなか難しいしね。」  「ええ、本当は園芸部として出したかったんですけど部長が認めてくれなくって」  「そんなことだろうと思った。だから来たんだ。」  「手伝ってくれるのは助かりますけど。本当に見つかるんでしょうか。わたし、不安です。」  先行きが不安です……とでも言いたげだな。  「呆れた。君が弱気でどうするんだ」  「でも」  「いいから。盗まれた当時の状況を詳しく教えてくれ」
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