第1章

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 「ポスターに書いてあったのに見なかったんですか?わざわざこんなところまで来て」  彼女の抉るようなな目線が痛い。  「しょうがないだろ。さっさと剥がされてしまうんだから」  慌てて弁明する。  「はーっ。わかりました。教えてあげます。」  大胆な身振り手振りであげつらう。実はこの子内気でもなんでもないんじゃないか?  「いいですか。消えたんですよ。一夜にして。痕跡もありません。」  「本当になにもないのか?」  「本当です。何もかも同じです。犯人も何がしたいんだか。やれやれですよ。」  「なあ。犯人は一体何がしたかったんだ? 言い方は悪いけど、たかがメダカだろ。メダカだったらここらへんにも少数だけど生息しているし。なんならペットショップにいけばこんなリスクを犯さずに手に入れることができるだろう」  「その盗まれたメダカなんですけどね。なかなかいいお値段するんです。なんでも平沢先生の趣味らしくて」  「ああ。なるほど。それで犯人はそれを狙ったと」 「おそらくですけどね。わたしにはそれしか考えられません。高級品種が数種類。それと遺伝子保護のために育てられてる黒メダカと安価な種類を数種。被害はこんなところです」  「でも盗んでどうするんだ?換金でもするのか?それとも手元でこっそり観賞してほくそ笑むとかね」  「そこが問題なんですよ。換金するだけなら高級品種だけ狙えば済む話です。でも犯人はそうしなかった。犯人はなぜわざわざ労を要してまで安価な種類を狙ったのか。不可解です」  「まっ。ぼくたちには理解できないような変わった人もいるしね。犯人もそういった性癖の持ち主だったのかもしれない。」  「たとえば?」  「例えば?そうだなあ。メダカの背びれマニアとか……」  思わず口が滑る。  「なにそれ」  「犯人はメダカの背びれを眺めるのが趣味でここには絶品の背びれを持つメダカを盗んだ。そして換金できそうな高級メダカと並メダカも目くらましのために複数持ち去ったとか」  「それ本気で言ってます?」  「まさか。冗談だよ」  「あなたにそういう趣味があるのかと思いましたよ」  気のせいだろうか。彼女の目がどことなく警戒を帯びたような気がするのは……。  「いやいや!本当に冗談だから本当! 本当に!」  「へー」  ……後方からいかがわしいものを見るような視線を感じる。
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