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足尾の書く文章は女々しいと、言ったのは倉本だった。俺はそれに「どうだろう」と返したが、曖昧に濁したのは倉本の言葉に同感が得られたからだ。そんな遠い、くたびれた過去を思い出したのは、当の足尾が、俺の部屋に上がって猫背で芋をかじっているのを見つけたとき。
「どうだった?」
振り向きざまに言った。せっかく部屋に帰って来ても、足尾は暖房をつけていないから、ちっとも暖かくない。
「なぁ、どうなんだよ」
それが俺の意見や批判を求める声ではなく、ただ一人、倉本の感想が「どうだった」かを聞いているのだと分かったから、首を振る。足尾が芋を手放す。細い指に見放されて、畳を転がっていったが、部屋は狭い。すぐに壁にぶつかる。
「特に何も」
「そうかよ」
「女々しいって言ってた」
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