奪い去ってくれ

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「諭吉、奪いに行くよ」  美吉(みよし)から電話がかかってきたのは、午前二時のことだった。夜も深い丑三つ時。電話に出たことが敗因だったのか、携帯のマナーモードを切っていたのが失敗だったのか。考えてもどれも結果論だし、そもそも奴は電話に出なかったのみで諦めるタチでない。  美吉は別に、銀行強盗を画策しているのではなかった。諭吉というのは、俺のことだが、本名は福澤ヒロだ。お察しの通りの安易なこのあだ名は、世界で唯一美吉だけが使用している。だから電話に出た時も「諭吉」と呼びかけられた段階で嫌な予感しかしなかった。 「時間強盗をしに行くよ」 「は?」 「詳しいことは現地で言うね。午後一時に立川駅南口銅像前」  「いや、待て」呼び止める声も虚しく、相手はもう通話を切っていた。
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