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「伯爵に会わせて下さい」
「どうなさるおつもりですか?」
「カーターさんは、伯爵がどうして俺を呼びつけるのか知ってるんでしょう?」
「存じております」
「なら、俺が伯爵の傍にいる事に異論はないはずだよね?」
「ありません」
「なら、連れてってよ。俺が伯爵を説得する」
渋るカーターを何とか説得して、ユアンの元へ連れて来て貰ったロイは、いつものように湯殿へ案内される前に、薄汚い襤褸を纏ったまま、伯爵の仕事部屋へと押し掛ける。
後ろから「困ります!」と若いメイドが追い掛けて来るが、綺麗なシャツを着てスラックスを履いた自分は、火曜日だけの特別な自分だ。
今はありのままの自分で伯爵に会いに行きたい。
ロイは仕事部屋の扉の前に立ち、二度ノックする。
「カーターか? 入りなさい。ロイにはちゃんと……」
「失礼します。ユアン様」
「なっ……ロイ、お前……何して……」
「最後に文句の一つでも言ってやろうと思って、カーターさんに無理を言って連れて来て貰ったんです」
「何を勝手な事を……」
「五年前、初めて貴方が俺をここへ呼びつけた時、どうして縁も所縁もない孤児を貴方が呼んだのか、全く分からなかった」
「……つまり、その言い方だと、今は分かっていると言う事か?」
ロイはユアンの元へ歩き、ユアンが座っている立派な革張りの椅子の肘置きを両手で掴んで、乱暴にこちらを向かせた。
ジッと睨んだユアンにロイはただ黙って跪き、ユアンの膝頭に丁寧にキスをする。
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