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「昔、これと同じ事をした事がある……。事故で両親が死んで、借金の形に家も財産も全て取られて世間に打ち捨てられた五歳の俺が、唯一覚えている良い記憶だ」
「だから何だと言うのだ」
「薄ら寒い冬の海辺で、その人は呆然と海を眺めてたんだ。その内、飛び込んでしまうんじゃないかって思う程、海の色を濃く深く映した眸が悲しくて、子供だった俺はその人に声を掛けた」
突然甘えられる全てのものを喪い、恐ろしいものが増え、野宿なんてした事のない五歳の子供が出逢ったその青年こそが、まだ十八と言う若さのユアン・マリだった。
お家もあって、家族もいるのに、死んじゃうの――――?
ロイはそう彼に告げた。
全てを失った五歳の子供の、純粋な疑問だった。
ロイがその科白をもう一度口にすると、ユアンは息苦しそうに眉根を寄せる。
ものぐさな振りをしているのも、傍若無人な態度でロイを寄せ付けない様にしているのも、悲しい嘘を隠す為だとロイは知っている。
いいや、ものぐさで傍若無人なその態度こそが“嘘”なのだ。
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