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ロイを経済的に援助するつもりでユアンは週に一度呼びつけて、仕事をさせた。
嫌になって逃げだすだろうと思っていたユアンは、最初からその後の事もカーターに言い含めてあったらしい。
「早く手放さなければと思っていたんだが……」
ユアンはそう言って失笑を漏らす。
何度も酷い言葉を投げつけられたが、ロイは不思議とユアンの事を嫌いにはなれなかった。
それはユアンが頼む遣いの殆どが、街で話題になっているパンを買って来いだとか、新しく出来た菓子屋で菓子を買って来いとか、子供に頼む様な遣いばかりで、カーターはその一つを「御駄賃です」と帰りに必ず持たせてくれていた。
それがカーターの配慮ではない事に、ロイは気付いていた。
子供の頃、金の稼ぎ方も分からずに右往左往して暮らしたロイは、その頃食べたくても食べられなかった甘い菓子パンや、ケーキ、ラズベリーを大量に挟んだスコーン、そして母親が作ってくれていたファッジも伯爵のお遣いで食べる事が出来た。
「あの日ユアン様がくれた嘘があったから、俺は生きて来れたよ。だから一緒にいるなら、ユアン様がいい」
ロイが車椅子のユアンの膝頭にキスをしたのは、母親が怪我や病気をした際に、痛い所にそうしてくれていたからだ。
熱を出したら額にキスしてくれて、お腹が痛いと言えばお腹にキスをしてくれて、指を切った時は指に優しいキスをしてくれる。
頼る縁もない子供だったロイに、十八歳で両足が動かなくなったユアンはこう言った。
お前は大金持ちになるぞ。そのキスには、それだけの価値がある――――。
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