ものぐさ伯爵と靴磨き。

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「俺、バカだったから真面目に大金持ちになれると思って、死なずに生きて来れたよ。俺にとってユアン様のあの嘘は、希望だった」 「自分の方が大変なのに、人の足の痛みを心配してくる子供がいるか? 普通、物乞いするだろう?」 「物乞いの仕方を知らなかったんだよ。腹は減ってたし、寒くて死にそうだったけど!」 「あんな可愛い天使を、忘れるはずがない」  ロイは初めてそんな甘い言葉を吐かれて、対応に困った挙句、赤面した顔は隠しようもなかった。  いつも意地の悪い事ばかり言って人を蔑んでいたユアンの甘く蕩けた眸に胸が鳴る。  ロイは誤魔化す様に「そんな科白似合わねぇ」と悪態吐いて顔を逸らした。 「何だ、優しくした方がお前の恥じらう顔が見れるとは、意外な盲点だった」 「なっ、ちょっ……」 「愛してくれるんだろう? ロイ。その可愛い唇で、好きと言ってくれ」  床に跪いたロイの顎を、ユアンの長い指が掬う。 「やっ、ユアン様っ……ちょ、まっ……汚れるって!」 「待たない。一度は手放そうと籠の鍵を開けてやったと言うのに、戻ってきたのはお前だ。もう手放して貰えると思うなよ」  長い睫毛に掛かる昼下がりの甘やかな陰と、その奥に光る扇情的な夜を映した海の色の眸。  濡れた唇で紡がれる甘い囁きは、ロイの誰にも触れられた事のない一番柔かい所を擽る様に沁み渡る。
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