ものぐさ伯爵と靴磨き。

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 が、天は人に二物を与えないと言うのは本当らしい。  若く美麗で、街の噂によれば仕事の方でもやり手と評判がいいらしいが、ユアンは恐ろしくものぐさな上に、性格が悪い。  手を延ばせば届く所にあるものを取れと命じてみたり、自分が来ればいいものをこっちへ来いと呼びつけたり、兎角立派な文机から動こうとしない。  時には机の上にあるものを放り投げて、拾えと命じられる事もある。  薔薇が咲き乱れる季節に、庭の散歩に誘ったら「孤児と肩を並べて歩けるか」と一蹴された事もある。 「今日は遣いをさせてやる」  そう言ったユアンは椅子に腰掛けたまま、立派な文机の引出からコインの入った小さな包みをロイの足元に放った。  包み方が甘かったのか、コインは床に落ちた衝撃でばら撒かれてしまう。 「あぁ、もう……お金を粗末にしちゃダメですよ? ユアン様」 「拾え」 「はいはい」 「返事は一回だ」  訝しげに眉根を寄せたユアンに「すみません」と口だけ謝って、ロイは内心、機嫌悪いじゃねぇか! と突っ込んだ。  こんな傍若無人な態度にも、最初の数回は腸が煮えくり返ったロイだが、五年も経てば人間慣れて来るのだから恐ろしいものだ。
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