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様々な可能性が脳裏をよぎり、判断に迷っていた御神は、ふいに後ろから声をかけられた。
「……あら、部屋の前で突っ立ってどうしたの御神くん? 入らないの?」
聞き覚えのある声に振り返ると、ホウキを手にした神埜が立っていた。
「いえ、それが……」
なんと説明すべきか、言葉に詰まった御神を見て、何かを察した神埜が御神を押しのけて遠慮なく中を覗きこむ。
部屋の中の状況を見て納得したのか、神埜が呆れたようにため息をついた。
「まったくもう、御神くんを困らせるなんて迷惑なヤツね。御神くん、こんなヤツ遠慮しないで投げ飛ばしていいのよ!」
ぷんぷん、とわざとらしく怒りながら言い切った神埜を前に、御神は、いえそこまでするつもりはありません、と淡々と返す。
表情を変えない御神を見て、神埜が声のトーンを落として小さくポツリと呟く。
「……ごめんね。前は、こっち側があいつのベッドだったから……習慣というか、たぶんまだ癖が抜けないのよ」
前、と御神は呟いた。
御神の知らない、昔の――過去、神崎と神埜が同じ討伐部隊に所属していた頃の話だ。
「こらっ! 起きなさ――」
遠慮なくズカズカと部屋に踏み入った神埜が、神崎を起こそうと声を上げかけたので、思わず御神は引き留めた。
「御神くん……?」
きょとんと目を瞬かせた神埜に、御神がおそるおそる懸念していたことを口にする。
「もしかして、神崎さんは体調が万全ではないのでは……」
「違うわ。ただのオーバーワークよ」
御神の心配は、あっさり神埜に切り捨てられた。
「……トレーニングのしすぎ、ということですか?」
今度は御神のほうが目を瞬かせた。
仮にも討伐隊の隊員ともあろうものが、そんな初歩的な無茶をやらかすだろうか。
首を傾げた御神を、神埜がふと見つめる。
神埜の視線を受け、御神は何か理由があるのかと勘づいた。
御神くんになら言ってもいいわよね、と独り言のように呟いた神埜がポツリと言葉を紡ぐ。
「……自分をぶっ倒れるまで追い詰めないと、何も考えずに眠れない」
視線を落とした神埜が、静かに御神に語った。
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