四季彩 ーバルセロナの初春編ー 1

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レイは、常に何かにイライラしている様だった。 それが、取り組んでいる作品の経過のせいなのか、新しい環境のせいなのか、もともとの彼女の気質からなのかは、わからなかった。 アーティストは、孤独だ。 それが、身に染みてわかる程の今、もしレイの苛立ちの矛先が取り組んでいる作品に対してなら、その気持ちがわからない気はしない。 けれど、右も左もわからぬまま、身寄りはもちろん知り合い一人いないこの国で、いつ、どんな場面で人の力が必要になるかは、わからない。そのような状況に身を置く中、ひまりとしては、自分の思うままに、当たり障りなく人に接することはためらわれた。 同じ授業を受けているクラスメイトと顔を合わせれば、すかさずあいさつをした。課題について、質問や確認をして、繋がりを持とうとした。だからといって、次に廊下ですれ違うときに、その中の誰かが声を掛けてくれることはなかった。  たとえ小さくても行動を起こしたところで、何かが大きく変化するということはなかった。ひまりに、友達と呼べる人は一人もいなかった。それに、本当に友達が欲しいかもわからなくなっていた。  対するレイの行動を羨むような、けれど批判的で子どもらしくも、どちらにも思うこともあった。  周りを見れば、みんな一人でいることが多いと気付いたのは、少し後になってからだった。それでも、誰もレイのような張りつめた強さは持ち合わせていないように、ひまりには見えた。
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