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「きゃー!助けて!ひったくりよー!」
甲高い女性の声がする方にまわりにいた人達の視線が一気に集まる。そのうちの二人の男はお互いに視線を合わせ同時に頷くと、一人は犯人の方へ、もう一人は反対側の方へと駆け出した。
犯人を追いかけている男は、茶色の髪をなびかせて悪ガキのような笑みを浮かべ走っていた。
「待て!」
その男の声に犯人は一瞬ピクっと肩をすくめたけど、足を止めることはなかった。
十字路の前に差し掛かったとき、男はもう疲れ果てて犯人との距離がひらいていっていることに気がついた。心の中でのんきに感心していると、
「えい!」
さきほど反対側の道に走っていったもう一人の男が、十字路の角から可愛らしい声を出して犯人に飛びついた。
「ナイス、心温!」
茶髪の男はそう言って、犯人が手に握り締めていた女性向けのカバンを強引に取り上げた。
心温と呼ばれるもう一人の男は細身な体にもかかわらず、暴れる犯人をアスファルトに押さえつけていた。
「どうもありがとう。」
茶髪の男はなぜかひったくり犯に向かってそう言った。
心温は、すこし首をかしげ
「春くん、どうしたの?」
と言った。
春と呼ばれる本名「佐賀春輝」は、
「なーんでもない!」
と変なリズムで言ってさっき来た道を歩いていった。
「待ってよ!この犯人どうするの?」
「そのへんの交番にでも預けとけ。」
春輝は後ろを振り向きもせず進んでいった。
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