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頭に喰らわせたから、勝負はあっただろう。膝から崩れ落ちた鳥足さんの前に着地する。
気絶しただろう。だから伝えたかったことをこっそり言うことにする。
「鳥足さん、あなたと一緒に魔王討伐がしてみたかった」
彼がいたら、俺は魔王に殺されずにいて、仲間もアニスも一緒にあの世界で過ごしていられたかもしれないな。
魔法の才能は……わからないけど、きっとできるさ。あの集中力なら、精神力はかなりのものだろうし。
表彰式は鳥足さんの回復を待ってからか。少し時間が余ったな。
俺は控室で休むことにする。一人になりたいし。
控室の長いベンチに腰をかけると、涙が溢れてきた。
「俺は、日本最強の剣士になれただろうか。長かった……十七年、長かった」
涙声でも、声に出したかったんだ。だって、これは嬉し涙じゃない。
優勝したことがうれしいわけじゃない。これは過程に過ぎないから。
悔しいんだ。あの悔しさが消えないんだ。
「すまない、アニス……すまない。すぐに助けに行くからね」
鼻をすすり、涙を拭って
「さぁ約束は守ったよ神様、日本最強の剣士になったよ」
どうだ、神様。約束は果たせた。答えてくれ。
「まさか、ここまで強くなるとはな。もう魔王に負ける心配はないと?」
頭の中に神様が語り掛けてきた。ボリュームを下げてくれ、頭痛がする。
「ああ、この世界で最強になれた。異世界でこの能力を何倍にも跳ね上げれば、俺は、今度こそチート勇者になり魔王を倒す!」
「あれから十七年経っているのにか? あの世界がどうなっているのか、知って後悔はないのか? この世界で今まで通り生きていけば、平和に生きてゆけるのだぞ」
なんだよ、そんなに元の世界に行かせたくないのか? そんなことはどうだっていいんだ。俺は元の世界に帰るんだ。
そう思っていると、つい声を荒げてしまった。
「俺は生まれてから一度もアニスを忘れたことはない! 神様、あんたが記憶を持ったまま転生させたんだろ。責任をとれよ」
「……世界を救う勇者になるか」
「なる!」
「いいだろう。アニスを救うのだ勇者シャイル・サングよ!」
きたーー! あとは死ぬだけだ! 俺は、やっと元の世界に転生できるんだ。
「宵東君、待たせてすまないね」
急なノックにびっくりした。訪ねてきたのは鳥足近侍(とりあしきんじ)だ。すぐに気絶から復活したらしい。
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