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妹は、本当に可愛い。
ただ、小さい頃はどこへ行くにもついてきたのに、小学校に上がった途端、女の子の友達と遊ぶようになった。もう少し兄にべったりでもいいのに、どうも期待通りにはいかない。お兄ちゃんと呼んでくれるのは嬉しいが、あいつとセットという条件付きなのは、なかなかに複雑だ。
五月。世間ではゴールデンウィークが明けた頃、三兄妹の長男である俺は、熱心にロボットのプラモデルを製作していた。高校から帰って宿題を手早くすませて、階下の母親から晩飯に呼ばれるまでの間、自分の部屋にこもってプラモデルをいじる。それが日課であり、日々の楽しみとなっていた。
高校生の息子のプライバシーを尊重しているためか、そもそも息子にあまり関心がないからか、母親は俺の趣味を知らない。そもそも、普段から父親のフィギュア収集に難色を示しているので、俺の趣味も公表できそうにない。そんな母親を見て育っているので、愛すべき妹もおそらく、俺のプラモデル製作を理解するのは難しいだろう。
なので、家族のほぼ全員が、俺がひた隠しにしている娯楽の数々に気付いていない。家族の誰もが、長男がこのように育っているとは思っていないだろう。たった一人を除いては。
玄関の扉を閉める音がして、誰かが階段を上ってきた。ノックもなしにがちゃっとドアが開かれて、自分と似ている顔の男が現れた。気怠そうな口調で、ダンボール箱を抱えて。
「兄貴ぃ、通販届いてたぜ。ったく、またプラモデルかよ」
この男こそ、家族で唯一俺の趣味を知っている双子の弟、秋男(あきお)だ。
俺たち春男(はるお)・秋男兄弟は、小中通して成績優秀。ご近所でも評判の優等生で、期待通りに県内トップの公立高校に揃って合格した。ついでに、春男の見た目は自称上の中クラス。俺も同じ顔だが。
「今も作ってるのに、また新しいプラモ買ったのかよ!」
俺が手にしているプラモデルを一目見てから、秋男はさほど重くない箱を手渡してきた。中身はすぐには使わないので、勉強机の横にいったん置いておく。
「違う。ロボットの塗装に使う塗料一式だ」
「結局プラモ関係じゃん。ったく、よく飽きねーな。そんなもん作ってて楽しいのかよ」
弟は、俺の勉強机の椅子に勝手に座った。机上に並んでいる参考書を適当に手に取って、片肘をつきながらパラパラとめくる。
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