少年よ。きみにハーゲンダッツはまだ早い

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少年よ。きみにハーゲンダッツはまだ早い

①  ――初夏。  あっちぃあっちぃと、扇風機の頭の向きを足の裏で操作する僕は、現在の状況を端的に述べると、畳の上でゴロゴロしていた。口の中には水色のアイスキャンディー。その商品名からは察するに、ガリガリすることを推奨されるそれを、丹念に丹念にぺーろぺろぺろと舐めている。実に卑猥で隠微な表現ではあるが、そのじつ身も心もカラカラであった。  ちゃぶ台をひっくり返すくらいに野球狂の父の影響から、小、中、と野球部に所属していたが、高校は坊主頭が嫌で、今では帰宅部のエースに甘んじている。こうなりゃ彼女の一人でも作ってみようかと切に思うものの、いかんせん先立つものが無いのである。健全なる僕たち私たち高校生が、一ヶ月生きていくのに、小遣いの五千円だけではとてもやり繰りできないのだ。 「バイトでも始めよっかな」  と、老化の予兆とも言うべき独り言と同時に、僕のスマホが、てぃんこーんとラインの通知をお知らせする。中学時代のクラスメイト、田辺からである。 『おい、マコト。映画観に行く約束覚えてるか?』  覚えてる覚えてる。ちゃんと覚えてる。支度が面倒でゴロゴロしていただけである。約束って苦手だ。計画というのは立てるまでが楽しい。しかし計画の日が近づく度にその計画を遂行するのが億劫になっていくのだ。僕には行き当たりばったりなのが、性に合っている。されどもこんな性格ゆえ、ただでさえ少ない友人を減らすのも面白くないと、ようやく僕は、その重たい腰を上げる。田辺には横ピースのウザいラインスタンプ一つで雑に返信。急いで着替えなくてはいけない。僕史上、最もお気に入りで、ヘヴィーローテーションの殿堂入りを果たしたティーシャツを着て、キャップを被る。SNSに投稿した写真なんかを見返すと、大概これを着ているのが恥ずかしい。ちゃんと他の服は持っているんだ。ただここぞという時はこればっか着てしまうんだな。  待ち合わせ時間を十五分過ぎたところで、僕はスニーカーを履いて家をでた。ほんのり時間にルーズではあるが、完璧なのは可愛くないでしょ、てへっ。と言えば大概は許されるものだと思いたい。
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