きみの声を見失わないように

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「お、おいっ、何で泣くんだよっ。俺、そんなに嫌なこと言ったか? 可愛い声より綺麗な声って言った方がよかったか?」  気が付かないうちに涙を流していたらしい私を見て、あたふたと周りに助けを求めるように目を向ける先輩。けれど今、図書室には私達二人だけ。見当違いなことを言う関口先輩に、私は首を横に振って否定することしか出来ない。  助けてくれる人が誰もいないことに気付いた関口先輩は小さく息をつく。そんなことにも肩が跳ね上がる私の頭に、関口先輩は優しく手を置いて、そのままそっと撫でてくれる。 「ああ、もう。泣くなよ。俺、一人っ子だから泣いてる奴の慰め方なんて知らねえんだよ」  泣き顔を見ないように目を逸らしながら、照れ臭そうにそう言う関口先輩の優しさが、じんわりと胸に染み渡る。  ああ、なんて優しい人なんだろう。  私も関口先輩みたいに素直に気持ちを伝えられる人になりたい。
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