番外編 ② 〜 天使がやってきました 〜

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「んーーー」 顔を歪め、歯を食い縛る菜々花。 抱き締めてやりたい云々は またもぶっ飛んで、ハンドルを握る手に汗が滲む。 「大丈夫か?横になったら、少しは楽になるんじゃないのか?」 「んっ、痛い、よっ」 気休めの提案も耳に入らないらしく、俺の左腕を掴んだまま 痛みと戦っている。 左腕が結構痛い。 だが、きっと菜々花の方が 何十倍も痛いのだ。 例え腕が千切れても、これがこいつの支えになるなら耐えてみせる。 とにかく、裏道に入った以上 病院まではかなりの距離。 俺が今 出来ることは、一刻も早く安心安全な場所に連れて行くことだ。 何故だか 俺も腹が痛くなってきた。 「ハァ…痛かった…」 やっと陣痛の波が去ったらしく、菜々花が大きく息を吐く。 「これからもっと痛くなるんだよね?しかも、休憩出来る時間がどんどん短くなるんでしょ?…怖いよぉ」 基本 楽観主義なのに、珍しく弱気になっている。 やはり陣痛とは 想像を超える苦しさなのだ。 知識として理解していたものの、実際に目の当たりにすると掛けてやる言葉も見つからない。 「あ、何分間隔で痛みが来るか、計らないといけないんだっけ。メモ帳 メモ帳…」 それでも気丈にカバンをゴソゴソ探る音を聞きながら、泣きたくなってくる。 女って、凄い。 子どもを産むって、凄い。
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