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「緒方 菜々花さん」
いきなり本名をフルネームで呼ばれ、急激に緊張が走る。
色っぽいどころではなくなってきた。
そう、〝音々〟は この仕事での私の名前。
お客様に絶対に本名を明かさないのは、この仕事の鉄則らしい。
「契約書も交わしているだろう?今さら何を言う」
「わ、わかってますよ!けど、やっぱり知らない人といきなりデートして、気を遣って、笑いたくもないのに笑って、そんなこと私には」
「二百万」
桐島さんの口角が上がった。
「でっ」
出来ません…が、言えなくなる。
現在 夜の十時過ぎ。
側から見れば 残業帰りにコーヒーショップに立ち寄った、健全なサラリーマンとOLの図に見えるかもしれない。
けれど
桐島さんと私は
〝レンタル彼女〟という仕事を通した 雇用する側とされる側の関係。
その間にあるものは
私の、二百万円の借金。
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