11章 不安的中…

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・ 「もう切るから」 「わかったよ、またな」 ため息を付きながら言ったあたしに高槻は以外にあっさりと身を引いた。 強い押しと、潔い引き。 高槻は本気で勝負に出てきてる── 三年間、ほんとにこの調子で口説いてくるつもりでいるのだろうか── 「もうっ…夏希ちゃんがちゃんとしないから揺れるじゃんっバカッ!!」 一人の部屋であたしは吠えた。 大体芸能人だからってスキャンダルの為だけに恋人演じるとかって何さ? フリだ偽だとか言いつつヤルことしっかりヤっちゃってるじゃんっ… 怒りながらトイレに入る。どんな時でも便意は催すものだ。 一人の狭い空間で落ち着けとばかりに深呼吸する… 「…臭っ……」 臭いを思いきり吸い込んでしまった……。 刺激臭に喉をやられそうだ。 滲む涙をトイレットペーパーで拭きながらあの女の言葉が今一度、脳裏を霞めた── 「勃起…っ してんじゃねーよっ誰にでもよぉっ!…」 狭い空間で悲しい叫びが響いていた──。 ・ 「アクション!」 カチンコの音と共にカメラが回される。 俺は三台のカメラに追われながらセットの建物の中を摺り足で走り回る。 藤壺を御所内で追い掛けて裏庭で捕らえるまでのシーン。 言わば独り鬼ごっこだ── これが結構地味な重労働なわけで…。 単独のシーンが多いために遅くまでスタジオに残りワンシーンずつを溜め撮りしていた。 「はい、カッ──ト!」 「お疲れ様でした」 汗を拭い衣装を脱がせてもらう。 夕方に猛った下半身は今は大人しくお辞儀している。 俺は小さく舌を打った。 濡れ場のシーンは惚れてる女を思い出せ!── なんて髭のチンピラに教わった方法で艶を出すように演じていれば、いくら平安の衣装がダボついていたとて抱き合って密着したら当然、俺の猛りは舞花にバレてしまうわけで…… ヤケに顔を赤らめた舞花に誤魔化しの言葉も言えず… 「誰にも言うなよっ…」 なんて耳元で口止めするしかなかった── 「アイツなんか言いふらして回りそうだな~…とくに髭のチンピラにっ」 俺は独り言を言いながらテレビ局を後にした。
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