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俺に言われた事が堪えたのか、近付いてくる様子が見られなかったし……
諦めてくれたならこっちも助かる。
ただ、こんなあっさり身を引くならちょっと言い過ぎたかな…なんて少しばかり良心も咎めたりしているわけで。
「……お前に認められるように頑張るんだと」
「は?なにを!?」
「芝居だよ、シバイっ!」
「……っ」
「お前に言われたって。演技の技術を身に付けたらほんとの恋人になれるかもって──な?」
「………」
「言ったんだろ?」
「……言っ……た」
「御愁傷さま」
ゆっくり頭を抱えた俺に髭はそんな言葉を投げ掛けていた。
「まあ、なんだ…舞花がやっとやる気になってくれた!俺は万々歳だな!さすが聖夜だ。お前でアイツを釣って良かった」
饒舌に語ると髭は豪快に笑っていた。
俺は頭を抱えたままだ…
舞花って…
結構根性ある…
やっぱ小さい時からスポーツしてるヤツって負けん気が強いのか?…
高校デビューか…
見た目ダルそうなチャラさがあるけど女は外見じゃわかんねーな…
「マジで演技の腕上げたらどうすっかな…」
「お前が認めなきゃいい話だ」
俺のボヤキに髭は言う。
「そうすれば舞花はもっと頑張って腕を磨く、いいことづくめだな俺にとって!」
無責任な明るい笑顔に腹が立った。
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社長は言いながら上着を手にして腰を上げる。
「どこ行くの?」
「ちょい打ち合わせ!」
「そ?……」
「ああ、…じゃあ行ってくるわ」
やけにニヤリとした顔を俺に向けると社長は事務所を出て行った。
静かになった事務所でテーブルの上にあった新聞の広告に目が向いた。
資格コースなんて名目で沢山の職種が並んでいる──
俺は何気にそれを眺めていた。
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