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しばらく二人して無言のままで森を歩く。普段のぼんやりとした散歩とは違うため、疲労の溜まりが早く感じられた。
足跡は魔女の家のほうへ向かっていたが、途中で見失ってしまう。この辺りは草葉が多く、地面がひどく見えづらいのだ。だが、そんな中にも見つけられるものはあった。
「……これ」
私が草に引っかかっていたものを取り上げてみせると、魔女様の顔色が変わった。蔓草と石、鳥の羽で作られた装飾品。それは、夕食時に話した女の子が持っているはずの、魔女様謹製の首飾りだった。
「冗談じゃないぞ……」
苦しげにうめくような声で彼女がそう言うと、下草の中をなにかが這ってやってきた。
私が警戒して身を硬くすると、魔女様は大丈夫だと言って私を落ち着かせた。草をかき分けて鎌首をもたげたのは、使い魔の大蛇だ。魔女様の耳に顔を寄せ、なにかを伝えているようだった。
「案内しろ」
命令されて、蛇は素早く地を張っていった。魔女様は私の腰を掴むとふわりと浮かび上がって、闇の中を滑るように飛んでいく。私にははっきり見えないが、彼女には蛇の姿がきちんと把握できているらしい。
やがて辿り着いたのは、魔女の家にほど近い場所にある川だった。大きな段差があり、小さな滝になっている岩場に、仰向けに倒れている人影が見える。
二人してそばに降り立つと、人影を見守るように周囲の闇の中に使い魔たちがいるのが分かった。
「ご苦労だった」
大蛇に労いの言葉をかけると、魔女様と私は人影のところに屈み込む。間違いない。あの女の子だった。魔女様の顔からは血の気が引いており、必死に女の子の状態を調べている。
意識はある。痛みのせいか、使い魔の姿を見たためか、すっかり怯えてしまっている。脚を多少痛めたようだが、他に擦り傷以外に外傷はなさそうだ。
私はほっとして、もう一度魔女様の顔を見た。彼女は今にも泣き出しそうな顔付きになっており、私はどうにも声をかけるのをはばかられる気分になった。
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