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 森に住む魔女様は夜を生きている。太陽を嫌っているわけではないが、彼女は夜の帳が下りる頃に目覚め、日の出前に眠りにつく。夜こそが彼女の力の源であった。夜の森は彼女の世界であり、近隣の村落に住む人々は彼女を畏れ敬っていた。  私が彼女の小間使いとして仕えるようになったのは、およそ三年ほど前である。その頃の彼女は昼日中でも活動しており、その意地の悪さに振り回された人々は、口々に彼女のことを人に話して聞かせたという。噂が噂を呼び、まことしやかな作り話も同じだけ広まりはしたが、それは悪評というよりは畏怖や畏敬に近かった。  それには理由が二つほどある。ひとつは、彼女が人前に姿を現すことがあまりないことであろう。森に入る者を惑わせ、怯えさせ、困らせていたのは確かだが、人々が見るものは大抵が竜や人食い鬼の巨大な影なのである。  実質的な被害が出ることは滅多になく、追い返されて終わるのが常だった。被害が出る場合は、森を侵犯しようとする悪意ある者にほぼ限定されており、事故や天災のようなものを除けば死傷者が出ることはそうなかった。
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