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 もうひとつの理由は、彼女はその意地の悪さに反して、意外と人によくしてあげることがあるためだ。彼女は人を困らせるのに長けていたが、一方で本当に困り果てている人に対しては、迷いなく救いの手を差し伸べるのだ。悪態をつくことは決してやめないくせに、怪我や飢え、病で苦しむ人々を助け、時にはそれぞれの生活上のことで助言を与えたり、魔法の品を分け与えることすらあった。  近隣の村落に住む人々は、森の実りを生活の糧としている。魔女様のことを人々は森の主として認識しており、彼女に対して敬意を払うことはあっても、邪険にすることはありえなかった。彼女の存在は人々の生活と、自然の一部であったからだ。  私自身もそうだ。こうして彼女とひとつ屋根の下に暮らす前から、魔女様のことは母から話して聞かされていたし、母自身が経験した魔女との奇妙な一幕をベッドタイムストーリーとして聞いたこともある。そして、母が彼女のことを友人として好いていることも、その時に勘付いた。  彼女と初めて会ったときは、物語の登場人物と対面したように心底わくわくしたものだ。実際、彼女は母や隣人たちから聞いていた通りの厄介な人物で、同時にとても繊細で可愛らしく、魅力的な人物だと知ることができた。  私は彼女と出会ったことを今も喜ばしく思っているが、しかし、彼女のほうはどうなのだろうと考えてしまうことがある。なぜなら、彼女は私と出会ったその時から、自身の在り方を大きく変えてしまったからだ。
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