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食事を終えると、彼女は森へと出る支度を始めた。
「昼の間に森に異常はなかったか?」
フードを被り、使い魔を伴って、玄関前で振り向いて聞いてきた。
「なにもないですよ。……あの、今日は私もご一緒していいですか?」
「またか」
と、魔女様は呆れた様子だ。
「ひとりで家にいても退屈なんですよ。今日はもう仕事もありませんし」
「寝てしまえばいい。人間は夜になれば眠るものだ」
「必要ありませんよ。分かっておいででしょう?」
不思議そうに私が言うと、彼女は困った顔をした。
「それは、そうだが。……夜の森は危険だと、何度も言っているだろう」
「あなたが一緒にいれば、心配いりませんよ」
私の言葉に、彼女は一瞬だけ戸惑うような顔付きを見せたが、鋭い目つきになって私に詰め寄った。
「買いかぶるな。それに、私がお前を喰ってしまうかもしれないとは考えないのか」
「わざわざ助けてくれたあなたが、いまさら私を食べるとは思えません。それに、人食いの魔女だなんて話は、村にいた頃にも聞いたことはありませんよ」
「魔女は気まぐれだ。飢えを感じたら分からんぞ」
「なら、夕食後の今は大丈夫ってことですね」
それから少し見つめ合っていた(彼女は睨んでいたつもりだろう)が、盛大なため息とともに魔女様は諦めを口にした。
「まったく強情だな」
「お互い様ですよ」
彼女の言葉を微笑んで受け流し、私も上着を着込んでついていった。
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