---

8/14
前へ
/14ページ
次へ
 夜の森はとても穏やかだった。ときおりフクロウなどの声が響く他は、葉擦れの音がさわさわと聞こえるくらいだ。それらが一層、静けさを増すような気さえする。  さて、夜の魔女がなにをするのかといえば、別にこれといって大きな仕事があるわけではない。木々の間を散歩し、時には遊覧飛行したり、魔法のための材料を集めては、出会った動物にちょっかいを出してみたりと、まさに気まぐれな振る舞いをした。  彼女からすれば同行されるのは不安なのだろう。けど、自由奔放な彼女と共にいることが私にはとても楽しい。夜の闇を翔けることも、静けさにじっと耳を澄ませるのも、形容しがたい安らぎを私に与えてくれるのだ。こんな時間をあえて逃すなんて、ありえない選択だった。  そういえば、あの夜もこんな気分で森の中を散歩していた。母に連れられてここにやってきた三年前のことである。母は幼い頃から変わらずのいたずらっ子気質で、森の魔法をすり抜けるすべを心得ていた。私が会ってみたいとせがんだのも理由だったが、母もまた彼女に会いたいと思っていたのだ。だから、月の明るい晩に手土産を持ってやってきた。本当に、穏やかでいい夜だと思ったのだ。
/14ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加