雪鬼

10/107
前へ
/107ページ
次へ
 料理は凄く美味かった。料理が自慢だと紹介されていただけあって満足のいく夕食だった。飯も終わって少し時間が経ったところで濱田たちが部屋に来た。柚木の機嫌は直っていて、飲み物を飲みながら適当にだべったりトランプをしたりした。ちなみに酒は入っていないようだ。  ばば抜きをしながら少しテンションが落ち着いてきたところで、そういえば、と柚木が言った。 「ねえねえ、雪鬼ってなに?」  ビクリと手が止まった。気づかれないように、揃ったカードを2枚手札から捨てる。 「何って」 「さっき仲居さんから聞いたの。雪の日は雪鬼が出るんですよーって。南天の間にいるお友達ならご存知ですよって言われて」  南天の間、明らかに俺の事だ。あの仲居おしゃべりだな。いや、当たり前か客商売なんだし。ド、ド、と心臓の鼓動が早くなるのを感じながらも落ち着いた様子を装う。すると意外にも津田が「ああ」と反応した。 「雪国に伝わる昔話らしいよ。大雪の日に訪ねて来る奴は鬼だから返事するなってやつ。俺もさっき仲居さんに聞いたんだけど」  そういえばこいつはあの仲居とすれ違いで戻ってきた。話を少し聞いていて、後で聞いたのだろう。あんまり客に言いふらさないでほしい。ましてここは雪国なんだし、怖い話を客に言っていくってどうなんだ。嬉しくてついやっちまったんだろうけど。     
/107ページ

最初のコメントを投稿しよう!

99人が本棚に入れています
本棚に追加