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着替えを持って大浴場に行くと意外にも誰もいなかった。俺たち3人の貸切のようでちょっと嬉しい。風呂は屋内と外の露天があるが、さすがに露天に行く気はしない。あんな雪が降る中温泉に入るとかヒートショックの条件が揃いまくっている。
「で、お前本当にどうしたよ」
湯船に浸かって温まっている時にふいに津田が聞いてきた。
「何が」
「濱田たちは気づいてなかったみたいだけど、お前雪鬼の話しになったら完全に表情凍ってたぞ」
津田に続いて赤星までそんなことを言ってきた。あの場でいうと女性陣が食いつくだろうと思って言わなかったようだ。津田はともかく何も言わなかった赤星も同じ心境だったのか。そんな赤星の態度がなんだかおかしくて俺は笑った。
「お前、気遣いできるじゃん」
「うるせえ」
「いや、ありがとな」
赤星は別に、とだけ言い津田はへらっと笑う。こいつらになら、別に話してもいいかと思った。言いふらしたり話のネタにしたりするような奴らじゃない。
「俺小学生まで豪雪地帯に住んでたんだ。雪国って雪降ると身動き取れなくて何もすることがないから、ばあちゃんとかから昔話を聞いて過ごすんだ。その中にある話の一つが雪鬼。雪鬼の概要はさっきので間違ってない」
「まあなんつーか、どこにでもありそうな言い伝えっぽいよな」
「実際はもっと細かい話なんだ。この話を聞いて間もない頃に、その。嫌なことがあって。記憶が雪鬼と直結してるせいで単語聞くと思い出す。俺が今の家に引っ越してきた直接の理由が絡んでるからな」
思ったよりも重い話になった事に二人は黙って聞いていた。こういう言い方はずるいかもしれないが、いじめにでもあったと勘違いしてくれればいい。本当の内容は言いたくないし盛り上がる内容でもないのでここでいいかと思い風呂から上がる。
「おい?」
「長風呂苦手なんだ、くらくらしてくる」
不思議そうに顔を上げる津田と湯船につかりながら目を閉じている赤星を置いて俺は一人出る事にした。
「津田、赤星が沈んで溺れないよう見張っててくれよ」
「あいよ」
「起きてる」
「意識失う時は一瞬だぞ」
はは、と笑って俺は脱衣所へと向った。ちらりと湯気の向こうの二人を振り向けば、赤星が津田の頭を軽く引っ叩いているのが見えた。聞いてんじゃねーよ、とでも言っているのだろう。本当に、気遣いができないとかどの口が言うんだあいつはと俺は軽く笑った。
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