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ただ俺はなんとなく何もする気が起きなくて、一人部屋の中に残っていた。温泉に誘われたが飯食ってから入りたいのでそれを伝えて友人達を見送る。
外を見れば大雪だ。風はないのでただひたすらに雪が降り続ける。辺りは真っ白で、もともとある形さえふんわりと包んでしまっていて曲線の光景だけだ。直線の景色がない。東京ではあまり見られない光景だ。……懐かしい光景。
ぼんやりと見ていると、失礼しますという声と共に旅館の人が入ってきた。中年の女性だ。
「お茶とお茶菓子をお持ちいたしました」
「あ、どうも。珍しいですね、今時はもう部屋においてあって勝手に使うのが主流ですけど」
「もちろんいつでもお召し上がりいただけるようにこの部屋にも備え付けの茶具はありますけどね。ウチはまずご到着されてすぐにお出しするのが慣わしです」
にこりと笑うと沸かしたてのお湯ごともって来たらしく、土瓶のような小さなヤカンから急須にお湯を入れて茶の用意を始めた。
「そうなんですか。すみません、他の連中あっという間に風呂行っちゃいました。俺一人だけです」
「お寒かったでしょうからね、温まっていただけるなら温泉の方がよろしいです。お客様はよろしいのですか?」
「ああ、俺はまあ、雪国育ちなのでこれくらいは慣れてます」
「あら、そうでしたか。どちら出身です?」
豪雪地帯で有名な地名を言えば彼女はあら、と声を弾ませた。
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