雪鬼

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「私もそのあたりなんですよ。もうちょっと南に行ったところに小さな村があって。そのあたり出身なら、ご存知じゃないですか? 雪鬼」  その言葉に内心凍りついたが、俺はなんでもない事のように取り繕うと、ええ、と答える。 「アレでしょ、大雪の日にごめんください、って訪ねて来るっていう。雪の日にうろつく奴なんていないし、絶対返事するなそれは雪鬼だっていうやつ」  変な汗は出ていないだろうか、声は上擦っていないだろうか。引きつりそうになる顔をなんとか笑顔にして何でもない事のように語る。まさかこんなところで、こんなタイミングでこの話を聞くことになるなんて。 「あら、そんな話でした? 私が聞いたのは雪の日訪ねて来るのは雪鬼だから、粗末に扱ってはいけませんという感じでしたけど。それにまつわるエピソードたくさんありますよね。鬼が来る、だけではあまり怖くはありませんし」  ふふふと楽しそうに笑う。普通はそうだ、鬼が来るんだよ、程度で怖いはずがない。鬼が入ってきて、具体的に何をしてきて、どんな目にあうのかを語られたら怖いのだろうがそんな話はないのだ。たぶん食べられちゃうのかな? という想像に止まる。  それに大雪の日に誰かきても返事をしなければいいだけの話だ。問答無用で押し入ってくるわけじゃない。対策があるのだからそれほど怖い話でもないはずなのだ。  
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