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淹れてもらったお茶を飲みつつ、他の奴は帰ってくるのが遅いだろうから茶は自分の分だけでいいと告げると彼女は丁寧に挨拶をして部屋を出た。こんなところで同郷の方とお会いするとは思いませんでした、と彼女は嬉しそうだ。 俺も、こんなところで同郷がいるとは思わなかった、本当に。
しいん、と静まり返った部屋に一人でいるとどうにも落ち着かない。よりによって雪鬼の話を聞いてしまうとは……。せっかく忘れていたのに。いや、彼女のせいではないのだが。濃く淹れてもらったお茶を一口飲む。
「ふい~っ、いい風呂だったー。マッキーも入ればよかったのに」
戻ってきた友人の一人、津田は顔がやや赤くなっている。いかにも温まってきました、というホカホカとした様子だ。顔の周りからは軽く湯気が見える。
「いいんだよ俺は、飯の後で」
「俺はもう一回行くけどなあ、寝る前に。風呂からの眺めすげーよ? もう映えに映えて」
「雪しか見えないだろどうせ」
「竹に雪がかかって風流なんだって」
「何が風流だ、ワビサビもわかってないくせに」
「お、美味そうなもんあるな」
津田が身を乗り出して茶の近くにある茶菓子を見た。
「饅頭。ここの旅館の隣にある和菓子屋で作ってるんだとさ。土産スペースにも売ってるらしいけど。食うか?」
「お、いいねえ貰う」
「茶は自分でいれろよ」
えー、そこはいれてくれよとケラケラ笑って俺から饅頭を受け取ると頬張り、普通に話していたかと思うと安心した、と言う。
「何が?」
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