不機嫌な私とご機嫌な先輩

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「バレエとか日舞(にちぶ)やってる人間の、染みついた自然な姿勢の良さを感じたから。フィギュアは予想外だったけど。そうか…デコルテの美しさはそこからきてるんだな。すらりとした背の高さに、顔の小ささ。舞台映えするだろうな」 (よくも恥ずかしいことをすらすらと) 自分が嫌いな鋭い目も、スケートをやめる原因になった長身も、先輩は奇麗な言葉にして口から紡ぎだす。 そもそも私はこの人の作品が好きだった。 構図の切り取り方、モノの見方が好きだった。 そのうち話し方、考え方など知れば知る程好きになった。 感性に惚れるというのは、恋において最大の底なし沼にはまったといえる。 「そういうこと軽々しく言わないでくださいよ」 「緋山にしか言ってない」 「お気に入りだからですか」 「そう。あとは植物か、霊長類以外にしか言わない」 お気に入りと言われれば、嫌な気はしない。 でもそれは、先輩が普段モチーフにする自然や生き物と同じだ。 (モチーフとして、お気に入り…) 色恋の話で胸が痛いなんて表現を大袈裟だと思っていたが、自分が経験するとなるほどと思う。 痛いというより、個人的には心臓が冷える様な感覚だ。 カシャ、と、またシャッターの音がした。 今度はスマホで撮ったようだ。 「たまにそうゆう顔するよな」 「どんなですか」 「んー…(さと)った野良猫(のらねこ)みたいな」 「いや、ほんとどんなですかそれ」 「またみせてやるから。今日は帰るか」     
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