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さほど強くもない風が、校舎の間を通る時に暴れだす。
ビル風なんてもっと高い建物で起きるものじゃないのか。
脚立の上から写真を撮ろうとして、蒼井先輩がそれを支えてくれているのが申し訳ない。
さっきからファインダー越しに狙っている紫陽花の花が大きく揺れる。
「あーいかん、またブレた」
「みせて。あ、いや設定のとこ」
「ああ、はい、すみません」
「ん。ちょっと薄暗いけど、シャッタースピード早めたほうがいいかもな。この時間だと光の射し方もまだきれいだし」
先輩はカチカチとカメラの設定をいじり、「これで撮ってみ」と言って私にカメラを返した。
私はそのまま真上からフカンで紫陽花を撮る。
カメラのプレビュー画面で今撮った写真を見れば、今度は全くぶれていない。
「先輩はやっぱりすごいですね」
「勉強したらこのくらい、すぐ分かるようになる」
「なんていうか…先輩は撮りたいものを、【撮りたいように撮れる術】を持ってることがすごいです」
「表現方法ってこと?」
「それも含め、です」
脚立から降りようとすれば、手がのびてきてカメラを持ってくれる。
そのまま先輩が「そうだな」と言葉を続けた。
「おれはカメラが好きなわけじゃないからな。自分がいいと思うものを誰かと共有したい。それを具体的に表現するには、ある程度技術が必要だから勉強しただけ」
「道具にこだわらないですよね。フィルム使わないですし、スマホでも撮るし」
「ある程度の解像度があって、気軽に撮れたらそれが一番。その写真が仕事になるなんて幸せの極みだ」
話に耳を傾けつつ脚立から降りる途中、先輩が天気の話でもするように急に爆弾を落とした。
「そういえば、緋山ってなんでそんなにおれのこと好きなの?」
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