不機嫌な私とご機嫌な先輩

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ガチャンッと脚立が後ろに倒れた。 足を踏み外した私は、存外しっかりした筋肉を持っていた先輩に抱きとめられ無事だった。 「もう少しで『女子高生が脚立から落ちて死亡』って、夕方のニュースになるとこでしたよ?」 「そう簡単には死なない」 「わかんないじゃないですか!打ち所が悪かったらー」 「死なない。おれが受け止めるから」 (なんなんだこの人!人の気も知らないで…) そこではたと数秒前を思い出す。 足を踏み外した原因の先輩の発言だ。 「だいたい!…先輩が変な事言うからじゃないですか」 真意を問おうと見つめ返せば、きょとんとした顔で首を傾げられる。 美形がすると破壊力抜群だ。 もう私のHPゲージは赤く点滅している。 「だってよく褒めてくれるだろ。緋山はおれの作品だけじゃなくて、あり方?を肯定してくれる。だから何でだろうと思って」 「ああ、そういう」 ほっとしたような、どこか残念なような気持ちになる。 確かに憧れが過ぎて、割と先輩贔屓な発言をしているかもしれない。 先輩がそんな風に私の言動をとらえていたという事を、初めて知った。 「きっかけは、先輩の植物の写真です。ここのオープンキャンパスで、コンテストの大賞受賞記念のブースがあったんです。そこに飾ってあった、確かハコベラ…?」 「ああ、地面からアオリで撮ったやつ」 「それです」 いいかげん腕も疲れるだろうにと、降ろして欲しいと軽く先輩の腕を叩く。 先輩は頷いて、私を抱きかかえたまま紫陽花の隣に腰をおろした。 (ちがう、そうじゃない!) 体育座りで膝の間に囲われた状態は、明らかにさっきの態勢より状態が悪化しているといえる。 悪化とは私の精神衛生上の話だ。 「それで?」 ちょっと、と声を出そうとして、先輩に先を促される。 有無を言わせぬ雰囲気に、ため息をついて話を続ける。
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