捨てて、拾う

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たいてい夜更かしなあたしだけれど、そろそろ眠りにつかないと。 朝は仕事にならないだろうな。 分厚い本を閉じながらそんなことを思った時、何かがあたしの店の中にするりと入りこんできた。 ありえないことだ。 最高位の魔法鍛冶師の一人が作った、敵感知つきの看板が何の働きもしないなんて。 敵でない、相棒といえるウォラーレや、そのお目付役のグラウェ師ですらこの看板に知られずに店の扉をくぐることはできない。 できるとしたら。 知らずあたしの身体は震えた。 彼らを超えるほどの魔術師がどれだけいるのかはわからない。 けれども、あたしは世界を憎み、あるいは崩したがっている人々が未だ滅んではいないことを知ってしまった。 その時には仲間がいて、辛うじて切り抜けられたけれど、今のあたしはひとり。 なすすべもなく、この命などひとたまりもない。
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